今日もお休みでした。
今回は前回に引き続き『タイタンの妖女』の感想について書いていこうと思います。
※以降ネタバレを含みますので、ご注意ください。
前回の記事でも書きましたが、私が本作で面白いと感じた部分は、大きく分けて以下の二点です。
(1)「既成概念を否定して新たな神話」を成り立たせているところ
(2)「その神話を冗談として揶揄し、人間としての生き方を問い直している」
前回の記事では主に(1)に関して述べました。
(前回の記事はこちらをご参照ください)
今回は(2)「その神話を冗談として揶揄し、人間としての生き方を問い直している」について書いていきたいと思います。
本作にはウィンストン・ナイルズ・ラムファード以外に、もう一人主人公がいます。それはマラカイ・コンスタントです。彼は全米一の大富豪でした。ラムファードは、このマラカイを自身の計画の”受難者”として利用します。
ラムファードはすべての時間を見渡せる(正確に未来を予測できる)ことを利用し、マラカイを破産に追い込みます。そして破産したマラカイを火星に連れていき、彼のそれまでの記憶はすべて奪い去ります。
記憶を奪われたマラカイは、再度ラムファードの策略によって水星に飛ばされて、二年間の放浪生活を強いられます。二年間の放浪後、ようやくラムファードは地球に戻ることができました。
この物語の途上で前回も説明した既成概念の否定が行われ、マラカイが地球に戻ってきたときには、優れたものはすすんでハンディキャップを受け持つ世界が構築されておりました。
地球に戻ったのも束の間、これまたラムファードの策略により、マラカイはその妻ビーと息子のクロノとあわせて、タイタン(土星の衛星)へと追放されてしまうのです。
タイタンには、トラルファマドール星人のサロがいました。彼はトラルファマドール星から銀河の果てに、あるメッセージを届けにいく途中、宇宙船が故障しタイタンに不時着した使者です。
物語の終盤では、地球の人類の歴史は、このトラルファマドール星人のサロに宇宙船の交換部品を届けるために歪められていたという衝撃的な事実が明かされます。
これまであらゆる地球人がやったことは、十五万光年むこうの惑星に住む生物たちによって歪められていた。
(中略)
彼らは、このタイタンに不時着したトラルファマドール星人の使者のところへ、われわれに交換部品を届けさせる目的で、われわれを操ったのだ。
マラカイの息子クロノが、タイタンで拾った部品が宇宙船の交換部品であり、それをタイタンに運ぶために、すべて仕組まれていたというのです。
それまでの物語で「愛」や「自由」の既成概念を否定して構築した新たな公平な世界は宇宙船交換部品を届ける目的の副次的なもの、つまりは無意味であるという大転回が繰り広げられます。
この流れを私は「人間のあらゆる行動を縛る価値観からの解放」ではないかと解釈しました。「愛」や「自由」などの根本原理を否定し、成り立つ公平な社会までも冗談のような、意味のないものとすることで、人間の純粋な行動原理とは何かを大きく問い直しているように感じます。
この流れを踏まえると、エピローグで語られる物語に非常に素晴らしい感動があると私は考えます。
あらゆる価値観から解放されたマラカイ、ビー、クロノは、どのような結末を迎えるのか?
その感想はまた次回に譲りたいと思います。
今回はここまで。
それではまた次回。