Idiot's Delight

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花奴隷(2)

今日もお仕事です。

今回は前回の続き、「花奴隷」(自作小説)の2話目です。

1話はこちら。

akutade-29.hatenablog.com

 

ではご照覧あれ。

 

ーーー

 

『花奴隷』 2話

 

少年は寝床の中で

花畑主(はなばたけぬし)の言葉を考えた。

数とスピード。

どちらも少年には向いていないと思われた。

まだまだ少ないのかもしれないけれど、

慣れたその作業はこれ以上早くなるとも思えない。

毛布の中でじっと手を見つめる。

荊棘でついた傷だらけの手があるはずだが

毛布の中では暗くて輪郭ぼんやり浮かぶだけだった。

 

朝起きてうんざりして顔を洗って食堂に向かう。

食堂では奴隷の少年たちが

赤い花と白い花どちらを刈り取るのがいいか

話し合っていた。

今日の献立は豆のスープと

小麦粉を薄くのばして焼いたものだった。

指は震えていた。

少年は彼らの言葉に耳をそばたてた。

赤い花は荊棘が痛くて叶わないや

白い花はなかなか刈れなくて大変だ。

そんな言葉が聞こえてきた。

苦労を語る声は何やら楽しそうでもあった。

どっちの花を刈るのが効率的か。

少年はそんなことを考えてもみなかった。

なんとなく赤の次は白、

白の次は赤と刈り取るばかりだったのだ。

これが数とスピードということなのだろうか?

花畑主の部屋を考えてみる。

白一色でも赤一色でも

彼女の部屋にはそぐわないような気がした。

 

朝食を終えた少年は花畑に向かった。

食堂の話に従って、花の色に注意して

刈り取ってみようと考えた。

もしかしたらそれでうまくいくのかもしれない。

しかし赤の花は荊棘痛くて大変で、

白い花は刈り取りにくくて大変で

どちらも刈り取るまでの時間は

そんなに変わらなかった。

 

少年は落ち込んだ。

どうやらこれは数とスピードではなかったようだ。

しかし他にいい案は思いつかない。

少年は顔についた泥を拭った。

花の色を意識していたからか、

花畑のずいぶん奥まで来てしまったようだった。

移動していたのでいつもより時間がかかっている。

89,743本も刈り取らなくちゃいけないのに。

しかし花の色を気にしだすと

次に刈るべき花をなかなか決めることができない。

 

日はすでに落ちかけている。

焦燥が少年を満たした。

あたりには誰もいないのに

食堂にいるときと同じように

涙がたまり指は震えていた。

おぼろな足元は石にすくわれてしまい

少年は転んでしまった。

全身を土に塗れて涙がこぼれそうになる。

堪えた目を開けると目の前に

花弁が落ちているのを見つけた。

その花弁は白の中に赤が差した花弁だった。

二色の花のひら。

そんなもの少年はこれまで見たことがなかった。

少年は起き上がってその花びらの元を探した。

 

探した花はすぐ近くで見つかった。

赤と白、二色の花。

見たことないその花の色に少年は身震いした。

恐々とその幹に手を伸ばす。

もしかしたらこれが数とスピードかもしれない。

そんな期待が少年の胸のうちに宿った。

 

「やめてください」

少年に声が聞こえた。

それはか細くもはっきりとした声だった。

あたりを見回すが少年の他、誰もいない。

気のせいだったのだろうか。

少年は訝しみながらも再び花に手を伸ばした。

「やめてください」

少年の手が花に触れるとまたその声が響いた。

ありえないほど近くで、またか細く。

「私を刈り取らないでください」

その声は花から響く声だった。

 

(続く)

 

ーーー

以上です。

 

今回はここまで。

花の正体は!?

なんなんでしょうね。

私もこれから考えます。

それではまた次回。