Idiot's Delight

煩悩まみれで気軽に日々を過ごしております

花奴隷(5)

本日は休日です。

今月は有休を使っているので、休みが多く喜ばしいです。

さて今回は自作小説『花奴隷』の5話を書いていこうと思います。

前回はこちら。

akutade-29.hatenablog.com

 

それではご照覧あれ。

 

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『花奴隷』 5話

 

朝、目が覚めると

しわくちゃな寝具に血が散っていた。

鎌を抱いてい寝たからだろう、

ところどころに浅い傷を受けている。

朝日差す部屋の中に浮かぶ赤は

少年の目には鮮烈だった。

赤い花の命の花とつけた人も

同じ赤を見たのだろうか?

 

食堂いつもの通り賑わっていた。

ただ少年の体に無理な力が入って

縮こまることはなかった。

まだ少し目に涙がたまるし指も震えるが

昨日までよりゆったりとした心持ちでいられた。

その朝のメニューは

マッシュポテトとパセリのスープだった。

味はさほど変わらないはずなのに

いつもより美味しく感じる。

それまでは皿と食器を

凝視するしかなかった目線は

自然と周りの少年たちへと移った。

「イヤになるぜ」

近くの少年の声が聞こえた。

「オレも白い花に集中すりゃよかったんだ」

食堂にはずらっと皿が並び

奴隷の少年たちがひしめき合っていた。

冷たい空気の中で皿から上がる湯気が

やけにはっきりと輪郭を持っていた。

 

奴隷の少年たちは文句を言いながら

その視線は一点に注がれていた。

少年もそちらに視線を動かした。

視線の先には少年と同じ奴隷の姿が見える。

しかし彼らのメニューは

少年のメニューとは違うものだった。

マッシュポテトとパセリのスープに加えて

たまごを茹でたものがついていた。

彼らはたまごを潰してマッシュポテトにあえて

うまそうにそれを口に運んでいた。

 

少年は知らなかったが、

食事のメニューはみんな同じではないらしい。

どうやら前の日に納めた花の数によって

差が生まれるみたいだ。

いいメニューを食べているのは

3人で白い花を刈っていた集団だ。

彼らは少年よりも豪華な食事を

うまそうに頬張っていて、いやに楽しそうだった。

少年は他の少年たちのメニューも確かめてみたが

少年より悪いメニューのものは

誰一人としていなかった。

これが花畑主(はなばたけぬし)が言っていた

数とスピードということだろうか?

それまで少年は食事のメニューが違うなんて

気づきもしなかった。

しかし知ってしまうと最低のメニューを食べている

自分が惨めに思えてくる。

出された食事に不満なんてなかったのに。

少年はみすぼらしい食事をかっこむように食べて

食堂をあとにした。

 

花畑に出ると少年は二色の花の元の向かった。

少年は赤と白の花が渦巻く中央に鎮座する

二色の花を掴んだ。

「やめてください。私を刈り取らないでください」

花の声が少年に響いてくる。

「刈り取らないよ」

少年は意識の中で言葉を紡いだ。

声に出すとうまく言葉にならないので。

思っただけでも二色の花には伝わる気がした。

「君に告げたいだけなんだ」

「それはなんですか?」

やはり二色の花には少年の言葉は通じた。

「昨日の君の言葉に返事がしたいんだ」

「返事?」

少年はすーっと息を吸い込む。

「僕は花畑主を刈り取らないよ」

誰かに自分の意見を伝えること。

それは少年にとって。

「でも僕はそれが出来ると思うんだ。だから刈る必要ないんだと思う。君も、彼女も」

熱いものが胸から溢れてしょうがない。

少年の喉はからからに渇いていた。

二色の花の気配はまだそこにあったけれど

言葉は続いてこなかった。

少年は二色の花が言葉を紡ぐのを

じりじりとした思いで待った。

「それであれば結構です。努々その言葉をお忘れなきよう」

やっとそれだけ告げると二色の花の気配は消えた。

あっさりとした態度に少年は鼻白んだが、

自分の想いを告げることができたという

満足の方が大きかった。

 

その日、少年が刈れたのは8本だった。

白い花4本と、赤い花4本。

いつもの本数に戻すことができて少年は満足だった。

花畑主の部屋に入ると少年は驚いた。

部屋の中は一面、白い花に埋め尽くされていた。

赤い花は少年が持つ4本だけ。

そんな部屋は見たこともなかった。

彼女はいつもの通り部屋で煙を燻らせていた。

彼女はいつも通りなのだが、

部屋の異常さは平静を奪っているようにも見えた。

「具合が良くないねえ」

彼女は少年には気づきもしないように呟いた。

「赤と白が混じってないと具合良くならないのさ」

少年はおずおずと手に持っていた花を捧げた。

「……お前は変わんないねえ。でもこれぽっちじゃあねえ」

花畑主は少年から受け取った赤い花の花弁を一枚一枚千切っていった。

「数が足りないんだよ、お前も私も。どうにかしなくちゃいけないねえ」

千切った赤白の花弁を煙管に詰めて

彼女は煙を吸い込んだ。

少年はお辞儀をして彼女の部屋から立ち去った。

数が足りなくても刈り取ることができる。

少年はそんな風に思っていた。

 

翌朝、食堂には一枚の紙が貼り出されていた。

その紙にはこのように書かれていた。

「白イ花ノ価値ハ 今後3本デ1本トスル」

 

(つづく)

 

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今回はここまで。

夜にバーガーキングのワンパウンダー頂きました。きつかったですが、なんとか完食できて嬉しかったです。

それではまた次回。