Idiot's Delight

煩悩まみれで気軽に日々を過ごしております

花奴隷(4)

今日もお仕事です。

帰りにスラムダンクのブルーレイ買おうと思ってましたが、売り切れでした。残念です。

さて今回は自作小説『花奴隷』の4話について書いていこうと思います。

前回はこちら。

akutade-29.hatenablog.com

 

ではご照覧あれ。

 

ーーー

 

『花奴隷』 4話

 

花畑主(はなばたけぬし)を刈るのは、いかがでしょう?

 

それは少年には思いもよらないことだった。

その言葉を最後にして二色の花から

少年に語りかけようとする気配が消えた。

花持つ手に力を込めても、揺さぶってみても

なんの言葉も発さない。

まるで普通の花に戻ったかのようだった。

このまま、ものいわぬ花として刈ってしまおうか。

少年の頭にはそんな考えがよぎったが

どうもふんぎりがつかない。

このままその花を刈ってしまえば

その言葉は

少年の内から出てきたものになるような

そんな気がした。

結局、少年は花から手を放した。

ものいわぬ花となったらば、いつでも刈れる。

そんな楽観が少年の逃げ場となった。

ふんぎりをつけなかった少年の頭に中で

ぐるぐるとさっきの言葉が回っていた。

少年はそそくさとその場から離れた。

振り返ると二色の花は

花々に囲まれる花畑主のようにも見えた。

 

その日、少年刈れた花は6本だけだった。

白い花3本に、赤い花3本。

言葉が巡ると少年の手は少し重くなった。

刈り取りに手がつかず、ぼうっとする時もあった。

6本の花を携えて花畑主の部屋の入ると

いつものように彼女は花に囲まれていた。

ただ少し違和感があった。

白い花がいつもより多い気がした。

部屋の中で彼女を見ると

どうしてもその細いうなじへ目が吸い込まれる。

花畑主を刈るのは、いかがでしょう?

さっきまで刈り取りに用していた鎌は

まだ携えていた。

 

あの細い首筋は、言われてみれば

花より容易く刈り取ることができそうだった。

 

煙管を叩く音が響き少年は意識を取り戻す。

なにか恐ろしい浮遊感に苛まれながら

おずおずと少年は彼女に花を捧げた。

「お前は変わらないね」

花畑主は少年が差し出す花を受け取りながらいった。

「良し悪しはあるんだろうね。でも数とスピードなのさ」

花畑主は少年の頬に手を当てた。

その手は驚くほどに冷たかった。

「いつかそいつがお前を食いつぶすのかもしれないね」

少年は後退り、お辞儀にもならないお辞儀をして

部屋を後にした。

部屋の入り口を振り返ると

入り口から漏れた光のなかに

彼女の煙が薄く漂っているのが見えた。

 

少年は寝床の中で鎌を見つめていた。

鋭いその刃は闇の中にも滑らかに煌めいた。

刃にそって指を滑らすと

氷のような刃は指に赤い傷を残した。

しかしすぐ荊棘でついた傷の中に混じってしまった。

自分の痛みにはすっかり慣れてしまったようだ。

少年は花畑主を刈り取ることを考えてみた。

すると涙が目に溜まっていく。

それは食堂での涙とは違う感じがした。

悲しい、恐ろしい、淋しいのだけれども

どこかしら、ほんの少しだけ

その涙は“甘かった”。

少年は鎌を抱いて目をつぶった。

暗い穴にどこまでも落ちていきそうな、

涙の甘さに身じろぎしそうな、

宙ぶらりんとした身体を

縛り付けるように力を込めて。

少年はやがて眠りについた。

 

(つづく)

 

ーーー

 

以上、花奴隷 4話でした。

 

今回はここまで。

少年がまったく考えていない方に進み始めました。これからどうなるのでしょう? 私も本当にわかりません。

それではまた次回。