Idiot's Delight

煩悩まみれで気軽に日々を過ごしております

花奴隷(7)

今日はお休みでした。

雨だったので家の中をゴロゴロ過ごしていました。昼寝が気持ちよかったです。

さて今回は『花奴隷』の7話について書いていこうと思います。

前回はこちら。

akutade-29.hatenablog.com

 

ではご照覧あれ。

 

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『花奴隷』 7話

 

花畑から戻るとき

食堂には人だかりができていた。

皆、白い花を手に列を並んでいる。

列の先では朝方の少年がいた。

1本の白い花を受け取り、

1本の赤い花と交換していた。

どうやってそれほど大量の赤い花を

用意しているにかはわからないが

宣言通り交換に応じているらしい。

 

「きみは交換しないのかい?」

いつしか列は消え交換は終わっていた。

朝の少年はよく通る声で語りかける。

少年の手にはいつもの通り

赤い花4本と白い花4本が握られていた。

「そっちの花を交換すると、きみも得になるだろう」

そう言って朝の少年は、

少年が握る白い花に手を伸ばす。

しかし少年は

その手から逃れるように身をよじった。

朝の少年はくつくつと笑った。

「きみはそうするだろうと思った」

朝の少年の目がきらりと輝くのが見えた。

右と左で輝き方が違う。

赤と白に輝いて見えた。

少年は笑う少年をあとに、

花畑主(はなばたけぬし)の部屋に向かった。

あの声は二色の花に似ていると思った。

 

花畑主の部屋は赤く染まっていた。

ほとんど全てが朝の少年が交換したものだろう。

こんなに多くの花を交換して

彼にはどんな得があるのだろうか?

白い花はどこにやってしまったのだろう。

花畑主は机に肘をついて頭を抱えていた。

彼女からか細い声が漏れているのが聞こえる。

か細すぎて言葉として認識できない。

彼女のそんな姿を少年は見たことがなかった。

いつもどんな時でも

彼女は気楽に煙管をふかしていた。

そんな彼女を少年は。

少年は花束を捧げた。

しかし彼女はなにも。

諦めて少年は彼女の足元に

花束をおいて部屋を出た。

少年がいくら耳を傾けても

彼女の声は言葉にならなかった。

 

次の日の食堂には

また一枚の紙が貼り出されていた。

そこにはこう書かれていた。

「白イ花一本デ赤イ花一本ノ価値ニ戻ス。

 タダシ白イ花ト赤イ花ノ二本一組デ納メルコト」

食堂の少年たちはどのように反応すればいいのか

判断に迷っていた。

白い花の価値が戻ったことはいいけれど、

白と赤の花二本一組にしなくてはいけない。

すこし面倒だけれども、まぁそれくらいなら。

そんな空気が食堂に流れ始めた時、

食器を叩きつける大きな音が響いて

少年たちは音の方へ振り返った。

そこには赤い花と交換していた少年が立っていた。

「巫山戯るな」

彼の顔は怒りに満ちているように見えた。

「価値を変えるのも大概にしろ! こう変えられてはたまったものではない!」

食堂の少年は戸惑っていた。

赤い花の少年は自分の手を高くあげた。

荊棘で傷だらけになった手だった。

それは食堂の誰よりも赤々とした傷跡だった。

「見ろ、この傷を! わかるだろう、この痛みが!」

食堂の少年たちの手の傷は塞がりつつあった。

しかしその痛みはまだよく覚えているものだった。

「花畑主はこれを紙一枚で踏みにじっているんだぞ! きみらはそれがわからないのか!」

食堂の少年たちの戸惑いが怒りに変わるのに

それほど時間は掛からなかった。

食堂は少年たちの怒号で埋め尽くされた。

赤い花の少年はその光景を眺めて

静かに笑っていた。

 

(つづく)

 

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以上、花奴隷7話でした。

 

今回はここまで。

「虎よ、虎よ!」という小説を読み終わりました。面白かったです。

それではまた次回。