Idiot's Delight

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花奴隷(8)

今日はお仕事です。

ブログ記事100件越えました。やったね!

さて今回は自作小説「花奴隷」の続きを書いていこうと思います。

前回はこちら。

akutade-29.hatenablog.com

それではご照覧あれ。

 

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『花奴隷』 8話

 

花畑主(はなばたけぬし)も元は奴隷だった。

凍えるような寒空の下、荊棘で傷つく指先の痛みは今も覚えている。

当時の奴隷主は横柄な男性で、頭の殆どが綿での詰まっているようだった。

いま思えば理不尽なことを言われていたようにも、思い返すことができる。

「誇り」や「生きがい」が彼の口癖だった。

彼女はそれらの単語の意味がよくわからなかった。

それはまるで野犬の遠吠えのようで、自分たちを威圧する意図だけは感じ取っていた。

(あとになって意味を知り、彼女は笑ってしまった。どうやってそんなものが持てるというのか)

 

花の刈り取りの後、彼女たちは花に火をつけて煙を吸い込むことが求められた。

その煙を吸い込むと喉はひりつき、肺は焼けるような痛みがあった。

彼女たちは刈り取り以上に、その煙を吸い込むことが苦痛だった。

目に見える傷は我慢できるが、見えない傷は耐え難い。

広い部屋に敷き詰められ彼女たちは、刈り取ったすべての花を煙にして吸い込むまで、寝床に戻ることは許されなかった。

苦痛に歪む顔が並んでいる。咳き込む音が方々から聞こえる。

寝床に戻っても、それらの光景が瞼の裏と耳に上がって、なかなか寝付くことは出来なかった。

 

そしていろいろと「理不尽」なことも起きた。

 

彼女たちはそんな「理不尽」を「理不尽」とは思わなかった。(彼女がその言葉を知ったのは、ずいぶん後になってからだった)

朝起きて、花を刈り取って、煙を吸って、夜眠る。()

それが彼女の一日であった。

そこに疑問が生じる隙間はほとんどなく、しかし「当たり前」と断ずるには抵抗があって、時折どうしようもなく目から涙がこぼれてしまう。

 

その涙がどこから湧いてくるのかも、彼女にはよくわからなかった。

 

(つづく)

 

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今回はここまで。

刃牙らへん』が面白いです。

それではまた次回。