今日もお仕事です。
まだまだ語り尽くせぬ……。
さて今回はマンガ『攻殻機動隊』2話 SUPER SPARTANの感想の続きを書いていこうと思います。
前回はこちら。
※以降ネタバレを含みますのでご注意ください。
今回は8ページから。
8ページ
1コマ目 「盗め」「殺せ」に反発する職員。そのセリフに疑問を呈する少佐 少佐は腰のデバイスを操作する
職員「イザという時の制圧処理と「逮捕」が目的です」
少佐「証拠も令状もないのに公式?」
2コマ目 フチコマに寄りかかりながら、証拠がないのに捜査する理由を思索し結論を出す
少佐「で なぜここにあると?」
少佐「プロのハッカーを潜らせて・・・・失敗したわけね」(A)
フチコマ「もうやだなオレ」(B)
3コマ目 自嘲気味の笑顔を浮かべる公安職員
職員「同調(シンクロダイブ)して確かめてみます?」(C)
4コマ目 証拠は掴めていないけどハッカーが失敗するほど強固な防備があやしいと説明する職員
5コマ目 不信感を募らせる少佐
少佐「サル部長め ガセネタを強引に攻めさせ法廷で私を叩く気か」
6コマ目 トラックの外の風景 施設外観の描写
少佐「いつまでもこんなふぬけた捜査ばかりしてられないわ」
少佐「邪魔なのはサルか・・・」
1コマ目で注目すべきは「腰のデバイスを操作する少佐」です。これは前ページラストのコマで「腰のデバイス」からなった「ピピピピ」という音へ応対する形で描かれています。では「何をしているのか」は続く2コマ目を見ればわかります。
2コマ目の左下隅に小さくフチコマのセリフ(B)として「もうやだなオレ」と手書きで小さく書かれています。このセリフは3話以降を読めばわかるんですが、「フチコマ」が命令を受けたときの常套句です。(yes,sirみたいなもの) 7ページ目ラストから8ページ目2コマ目までの動作の意味をまとめると以下のようなものになります。
7pラスト ピピピピとなる→情報を受け取った少佐
8p2コマ目 「もうやだなオレ」→指示に了解
そしてこれら一連の動作に込められた意味が示すことは「少佐たちは公安に隠れて独自で捜査をしている」ということだと思います。公安とのブリーフィング中にも関わらず、少佐たちは裏で独自捜査をしていることが「絵」として表現されています。(2コマ目のフチコマに少佐が寄りかかっているのも「はやく行きなさいよ」と急かしているのかもしれません)この「絵」から少佐の公安に対する不信(公安の情報が信用できない)、そして能力的蔑視(あんたたちじゃロクな捜査できないでしょ?)が込められていると思います。
そしてこのシーンは「絵」だけではなく「セリフ」の応酬もあります。そして2コマ目のセリフ(A)を読み解くと、そこには少佐の公安に対する能力的蔑視が込められています。
少佐「プロのハッカーを潜らせて・・・・失敗したわけね」
このセリフは「風が吹いたら桶屋が儲かる」的な論理の省略があります。(「・・・・」の部分)ここが省略されているので、一見すると単なる会話のブリッジのように見えます。しかしこのセリフ「・・・・」を読み解くと少佐の内面が表現されていることがわかります。まずこのセリフを展開してみましょう。
【実際のセリフ】プロのハッカーを潜らせて
→【思考展開①】探らせれば証拠は見つかるはず
→【思考展開②】自分たち実力行使部隊に依頼するには証拠の有無は必須であり基礎である
→【結論①】公安はそんな基礎も出来ていない
→【結論①の否定】流石にそんな基礎も出来ていない訳はない
→【結論②】公安はハッカーを潜らせていた
→【思考展開③】しかし証拠の有無が確定していない(【思考展開①】との矛盾)
→【結論③】ということは公安はハッカーを潜らせたが
【実際のセリフ】失敗したわけね
最初と最後のセリフに合うように「・・・・」で省略されている思考展開を考えると上記のようなものになると思います。
【実際のセリフ】プロのハッカーを潜らせてと声に出している部分から、まず少佐は【結論①】を考えたことが推測されます。そしてそれは「公安への能力的蔑視」を表しているのでしょう。もし「公安の能力」に信頼を置いているなら、「プロのハッカーを潜らせて」などという基礎的なことは、わざわざ言う必要もないと考えるはずです。しかし少佐はこの【結論①】をすぐに否定します。(そうでなければ実際のセリフは「プロのハッカーを潜らせればいいじゃない?」になると思います)この否定で少佐は論理的な人物であることがわかります。なぜなら【実際のセリフ】プロのハッカーを潜らせてから推測される【結論①】に至るまでの【思考展開①】【思考展開②】は客観的な事実に基づくものではなく、主観的なものだからです。要するに少佐は自身の主観をおさえることができるくらいに論理的な人物であることが表現されているのでしょう。そして同時に少佐は思わず言葉にしてしまうくらい主観(本音)で公安を信頼していないことがわかります。【結論①】を否定した少佐はさらに思考を展開し【結論③】(【実際のセリフ】失敗したわけね)で帰結します。ここで帰結している点(公安のハッカーが失敗するわけがないと思考を展開しない点)でも、少佐の公安に対する能力的蔑視が伺えますし、そしてそれは【結論①】を否定したのちとなるため、ある種アウフヘーベン(止揚)された能力的蔑視と言えるかも知れません。
この思考展開をふまえてセリフ(A)を簡単に書き直すと以下のようなセリフになると思います。
「プロのハッカーを潜らせたらいいじゃない? そんな基礎も分からないの? ・・・いや、流石にそれはみくびりすぎね。ハッカーは潜らせてるんでしょ。でも証拠がないということは失敗しているわけね。よく考えても使えないわね」
このように8ページ2コマ目まででは「絵」と「セリフ」双方で少佐の公安に対する不信が表現されていると思います。
3コマ目。その二重の不信を受けて職員も自嘲の笑みを浮かべます。ここのセリフ「同調(シンクロダイブ)」は4ページ目に登場した「脳潜入(ブレインダイビング)」と同じようなものでしょう。しかし公安職員がアンドロイドで脳がないために「脳潜入」の下位システムとしてこのような名称が用いられていると思います。このセリフ(C)には「同調しなくても公安が失敗したことはわかるでしょう?」という公安職員の自嘲が込められていると思います。
4コマ目ではハッカーの失敗を自嘲する公安職員ですが、その正当性を真面目な顔で少佐に伝えようと試みます。
しかし5コマ目、6コマ目の少佐はそのセリフを聞いていません。「サル」への不信を募らせるばかりです。(ここで書かれている「サル」はもちろん荒川を指します)
以上、8ページ目の感想でした。少佐は公安を信用も信頼もしていません。捜査の「雲行き」が怪しくなってきました。以降のページで、この「雲行き」はさらにドス黒いものに変貌していきます。
今回はここまで。
アクションシーンになればもっと進むはず…!
それではまた次回。