Idiot's Delight

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マンガ『攻殻機動隊』感想 SUPER SPARTAN (10) 13ページ

今日もお仕事です。

我が家ではすでに扇風機が活躍してます。

さて今回はマンガ『攻殻機動隊』2話 SUPER SPARTANの感想の続きを書いていこうと思います。

前回はこちら。

akutade-29.hatenablog.com

 

※以降ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

今回は13ページから。ブリーフィングで公安vs少佐たちの決着(第1ラウンド)が終了し、捜査は施設の核心部に進んでいきます。

 

13ページ

1コマ目 プラグを接続する少佐

2コマ目 通信を表す稲光(ジジという音)

3コマ目 通信先の少年が目を覚ます

4コマ目 学習コースの風景 白目をむいて機械に繋がれている少年たち

5コマ目 少年の様子を不審に思った施設職員が少年に声をかける 横に少佐の顔も描かれる(視覚ハッキングの表現)

職員 「どうした28番!」

6コマ目 頭を抱える少年(28番) 機械から「ピーピー」と警告音がなる

少年 「何か変だ変だよォ」

少年 「宇宙が降ってくるぅ」

7コマ目 少年の歪んだ視界に施設職員(二人)が映し出される

職員A 「おいッ オーバーフローしてるぞッ」

職員B 「落ちつけ!落ちつけッ」

8コマ目 機械の接続を断ち逃げ出す少年

少年 「もういやだァ!!」

 

まず着目すべきは2コマ目。ただ通信接続を表しているだけのコマに見えますが、ポイントは「ジジ」という音です。これは5ページ2コマ目と同様に「少佐の聴覚素子(デバイス)の接触不良」を表しています。(だいぶ昔のことのように感じられますが)まだ8ページしか進んでいませんので、接触不良状態は継続中であることを示しています。

次に4コマ目。「白目を向いている少年たち」の絵はドキリとさせインパクトがあります。このインパクトのため、一見すると「ただならぬことが行われている」や「やはり施設は洗脳していたんだ」みたいな印象を受けます。しかしこの印象は誤読です。それは次のページにある少佐のセリフからも明らかです。

少佐 「ありゃただの学習装置だ!」

なかなかインパクトがあるので「(洗脳みたいな)虐待を受けている子供たち」みたいに見えますが、実は「普通の学習装置」に繋がれているだけなのです。このシーンを現実に置き換えると「普通の学校授業で白目を向いている子供たち」に当たると思います。このように解釈すると、ここでの子供たちの印象はがらりと転回します。「(被虐の意味で)可哀想な子供たち」から「(能力的に劣っているという意味で)カワイソウな子供たち」という転回です。今までの説明でも少佐は「子供たちを可哀想とは思っていない」と書いてきましたが、作品の描写でも「可哀想」に見えるものの、その実、子供たちを「可哀想」とは描写していないことがこのコマよりわかります。(「かわいそう」は「かわいそう」でも弱者への憐憫としての「カワイソウ」)

また「学習コース」が本当にただの「学習コース」だった場合、面白い事実も推測できます。それは本作の世界では「人間」は「肉体労働」くらいしか労働の余地が残っていないということです。前12ページに院長の以下のセリフがあります。

院長 「働くのが嫌なら 学習コースに行け」

12ページの時点で学習コースの実態が明かされていないため、上記のセリフをこのように読み解いてしまいます。

院長 「働くのが嫌なら洗脳するぞ」

「学習コース」は「洗脳」の隠語的表現と受け取ってしまいます。しかし13ページ(および14ページ)で「学習コース」はただの「学習コース」でした。つまり院長の上記セリフは字義に近いものです。わかりやすく言い換えると以下のような意味合いになると思います。

院長 「肉体労働が嫌なら(出来ないなら) 知的教育するぞ」

このような意味合いであると考えると、この作品世界では「知的労働より肉体労働が優位」という観念が普及していることが窺えます。現実の我々からは違和感を覚える観念です。なぜなら我々は「知的労働より肉体労働が優位」という真逆の観念があるからです。なぜこの観念が形成されているかといえば「知的労働が肉体労働より優遇されているから」でしょう。では本作の世界ではなぜ「肉体労働が優位」なのでしょうか? 順列は異なるもの構造は同じく「肉体労働が優遇されているから」でしょうか? しかし本作の世界観は現実の延長上にある世界観であり、産業革命を経験している以上、肉体労働が優遇されるような世界とは思えません。では何故か? それはおそらく「フチコマ(AI)」や「公安職員(アンドロイド)」の存在に起因していると思います。この作品世界では「知的労働」はこれらの機械に奪われているのでしょう。よって「肉体労働」が優遇されているわけではなく、(人間が行う)知的労働の価値が毀損した結果、「肉体労働」の優位性が強まった世界であると推測されます。つまり人間がやる仕事は「肉体労働」しか残っていないという世界観です。SFの想像力で構築された世界観で構築された極上の「皮肉」と「批判」ですね。(生成AI普及前夜の)現在から考えると「風刺」的でもあります。1980年代で現在にリーチする(というより30年ほど経過してようやく理解できる)想像力が込められていることが、マンガ『攻殻機動隊』の凄まじさだと思います。

そして5コマ目から少年(28番)が逃げ出すことで、物語は続いていきます。

 

このように13ページで「被虐の可哀想な子供たち」から「弱者のカワイソウな子供たち」という大転回が行われます。ではそんな子供たちを見た少佐の反応は? それはまた次のページで明かされます。

 

今回はここまで。

夜ご飯は「ワンタンメン」に「ジャワカレー」のルゥを落としカレーラーメンにして食べようと思います。

それではまた次回。